マルセル・エメ
『おにごっこ物語』『もう一つのおにごっこ物語』
プラス ナタリー・パラン
マルセル・エメ『おにごっこ物語』『もう一つのおにごっこ物語』と出会うきっかけは『バーバ・ヤガー』(福音館書店)*1でした。
*1 *1の原著 pere Castor(Flammarionn)1932(1996)
この絵本の絵がとても気にいって、ナタリー・パランの絵本を探しはじめました。しかしなかなか見つかりません。
ようやく、堀内誠一/編『絵本の世界110人のイラストレーター』(福音館書店)*2の第2巻の表紙にすてきな絵を見つけました。
その「えのぐ箱」と題された絵本をぜひ見てみたいと思いました。
*2
そこで、フランスへ行った時、『絵本の世界……』のカラーコピーを持って、カルチェラタンにある、パリ市立子ども図書館「たのしいひととき」《l'Heure Joyeuse》を訪ねてみました。
Paris.La Bibliothèque 《l'Heure Joyeuse》
パリ市立子ども図書館“たのしいひととき”
*2+
つたないフランス語で申し訳なかったのですが、対応してくださった方に「この絵本は別のところにある。あなたは長くパリにいるか?」と言われ、残念ながら見られなかったのです。でも、かわりにと見せてくださったのがカール・ペストール・シリーズ初期のナタリー・パランの傑作の一つ“Je Fais Mes Masque”*2+でした。
ペール・カストール・シリーズは、フランスの子どもたちが、よい絵本を安く読めるようにということで、ポール・フォーシュによって創刊され、Flammarion社から出版されたソフトカバーの絵本です。創刊の年は1932年で、今日も出版されています。福音館書店の「こどものとも」のモデルになったことでも有名です。そして、ナタリー・パランは、ペール・カストール・シリーズ初期の、ロジャンコフスキーらと並ぶ、代表的画家だったのです。
「たのしいひととき」の方は、古本屋まで電話をして「パランはないか?」聞いてくださいました。それから「どうしても欲しいか?」と聞かれ、最近復刊されて複数納品されて来た“Bonjour Bonsoir”*3一冊、定価で譲ってくださいました。
*3
子ども図書館を出て、7区にある子どもの本の専門店「シャントリーブル(Chante Livre)」でも、ナタリー・パランを探しました。今手に入る『えのぐ箱』は違う出版社,違う画家のものでした。
しかし、ペール・カストール・シリーズで、パランを2冊*4を見つけ、さらに書店の方に聞くと、あちこち店内を飛び回り、探して来てくださったのが “Ronds et Carres”*5“Ribambelles”*6でした。これらも、ペール・カストール初期の復刻版です。
*4 *4 *5 *6
日本に帰って来て、子どもの本の作家の方や中学校図書館司書の方と続けている「岩波少年文庫を読む会」でとり上げる本を図書館の棚を見て回りながら探していますと……。古い岩波少年文庫の背表紙に『もう一つのおにごっこ物語』とあるのが目に飛び込んで来ました。目次を見ると……
「えのぐ箱」!
びっくりして、『絵本の世界110人のイラストレーター』をもう一度、開いてみると「エメ」と書いてあるではありませんか! 「えのぐ箱」という、まだ見ぬ絵本の“画家”のことばかり考えていたのですが、文はマルセル・エメが書いていたのです。
こうして、(いつもの癖で、遠回りして)ようやくマルセル・エメに出会い、まず『もう一つのおにごっこ物語』、そして『おにごっこ物語』と読んだのでした。どんどん読みたい! 読み終わりたくない!という読書でした。面白いの一言!
末松氷海子さんは、その著作『フランス児童文学への招待』(西村書店)の中で「フランス児童文学のなかで、もっともおもしろい作品はといわれたら、私はまずまっさきに、エメの『鬼ごっこ物語』(または『牧場物語』)をあげるだろう。」(p152) と書いていらっしゃいます。まったく同感と言うには、こちらの読書はそんなに幅広くないのでおこがましいですが、とにかく面白かった。
さらにびっくりしたのは、あのモーリス・センダックが、初めて子どもの本に絵をつけたのが、この『おにごっこ物語』であることを知ったときです。(『センダックの世界』セルマ・G・レインズ/著 渡辺茂男/訳 岩波書店)
マルセル・エメは『壁抜け男』など大人向けもたいへん面白いですが、やはりこの『おにごっこ物語』の方が好きですね。
ちなみに、フランス語版『おにごっこ物語』すなわち“Contes du Chat Perche”は戦後出版されているものが、フランスの古本屋でも結構出ているようです。
ナタリー・パランの挿絵のものを、意外に安かったのでインターネットで購入しました。購入したのは「えのぐ箱」が載っている可能性で“Autres Contes du Chat Perche”(もう一つの……)の方にしました。これまた、つたないフランス語のメールで何とかなるものです。
しかし、戦前出版のエメ/作、パラン/絵の『えのぐ箱』の絵本は、まだ見ることができません。
「子どもの館」1982年3月号 通巻106号(福音館書店)の表紙は、その『えのぐ箱』“Les Boites de Peinture”です。おそらく、堀内誠一さんはお持ちだったのでしょう。いつか見てみたいと思っている絵本の一番なのです。
ついに入手!
“Les boites de peinture”
マルセル・エメ/文 ナタリー・パラン/絵
邦訳「絵の具箱」の絵本
2013年初夏に、パリ市立子ども図書館「たのしいひととき」《l'Heure Joyeuse》を再訪。前回と違い、受付の冷たい対応で「ない! 新しい図書館ができるまで段ボール詰めされてる!」の一点張り。がっくり! 旅行が本当につまらないものになってしまいました。しかし、ままよっとパソコンで検索してみたら、この”les boites de peinture”がインターネットショッピングに出ているではありませんか! 即購入、旅行中に手にしました。
マルセル・エメ墓地 パリ・モンマルトル サン=ヴァンサン墓地
その他の本
Gallimard ナタリー・パランの本
エメ小説全一冊
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