『都市』増田四郎

本棚にいつか読もうと思っている本がいくつかあって、先日その一冊を読み始めました。すると、鉛筆の傍線が結構引いてあって、余白に学生時代の友人の名前まで書いてあったので、びっくりしました。その本が『都市』(増田四郎・著 筑摩叢書)です。

再読して、やはり面白かったです。都市→市民→近代。ヨーロッパに近代的な民主主義が成立していくのに都市がはたした役割が書かれ、今日の日本でも読む価値があるように思いました。特に、私が面白かったのは、ラスト近く(p204)にある、次の記述です。

「駅前にその駅の物売り婆さんの銅像が立っているかと思えば、魚市場には市民に親しまれた魚屋の婆さんがヒラメかカレーをぶらさげて立つ銅像がある」

この一文を学生時代に鉛筆で囲み文字のように囲み「これはいい!」と書いていました。今回もやはりこの一文が気になって、どこの国の都市だろうと思いました。

そこで、この本の姉妹書のような『ヨーロッパの都市と生活』(同著者)も古書店で買い足しました。すると、デンマークのコペンハーゲンの項(p155)に、同じような記述と、口絵の「コペンハーゲンの魚市場」という写真の奥にそれらしいおばさんの銅像が写っていました。

そこで、インターネットで「コペンハーゲンの銅像」と調べてみたら、出てきたのは「人魚姫」と「アンデルセン」の銅像ばかり。今日でも、この魚屋のおばさんの像はあるのでしょうか? そして、もう一つの駅の物売り婆さんの銅像というのは、どこの都市にあるのでしょうか? それにしても、こうした人々が銅像になるなんて日本では考えられないでしょう。民主主義の歴史、定着度の違いを思いました。